京阪電車の東福寺駅から旧街道の面影を残す本町通りを北へ歩くと、住宅街のなかに突然、立派な鳥居とたくさんの提灯に囲まれた瀧尾(たきのお)神社が現れます。

神社の創建や由来はよくわかっていませんが、平安末期に起きた源平の争乱を描いた『源平盛衰記』に、こちらの旧名「武鶏ノ社(後に多景の社)」が記されており、平安時代にはすでに存在していたと考えられています。

天正14年の豊臣秀吉の方広寺大仏殿建立に伴って現在地に遷座したとも、皇室にゆかりの深い泉涌寺の僧が守るところの社であったともいわれています。

江戸時代初めの宝永年間(1704〜11)に幕府の命令により改築され、多景の社から瀧尾神社と改名されました。

祭神は大己貴命(おおなむちのみこと:大国主命の別名)と、弁財天、毘沙門天の三神です。

瀧尾神社を訪れたら、境内の絵馬舎にぜひ足を運んでください。

呉服屋時代の店頭や店舗ビルの写真など、大丸百貨店ゆかりの絵馬が3枚奉納されています。

なぜここに、そんな絵馬があるのかといいますと、家業の呉服屋を大きく発展させ、現在の大丸百貨店の基礎を築いた人物が、自宅のあった伏見区京町から行商へ行く途中に、毎朝欠かさず瀧尾神社に参拝していたからなのです。

大丸創業家では、すべての繁栄は瀧尾神社の御利益のおかげと今なお厚い信仰を寄せ続けています。

江戸後期の天保10〜11年に整備された現在の社殿も、大丸創業家の豊富な資金力に支えられたもの。
鳥居横の提灯にも大丸の文字が見えます。




瀧尾神社で見逃してはならないものにもう一つ、木彫りの龍があります。

拝殿の天井に配された長さ8mもの龍は、全身をくねらせ今にも動き出しそうな大迫力。

弁財天を祀っているこちらでは、水にかかわりの深い龍を大切にしています。

うれしいことに拝殿は常時無料で公開されており、生き生きとした龍の姿を間近に見ることができます。

「扉のかんぬきを外して、備え付けのスリッパで上がってください。マナーはしっかり守って」と宮司の佐々貴(ささき)さん。

無垢材の木目を生かし、細かな部分まできちんと彫り込まれたリアルな姿は、江戸時代の人々にさぞかし神秘的に見えたのでしょう。

「龍が夜な夜な抜け出して、川へ水を飲みに行っていっている」という噂がまことしやかに語られていたそうです。

龍が水を飲みに行ったという今熊野川は、境内のすぐ北を流れていますが、今は暗渠(あんきょ)になっており、もう龍が抜け出す心配はありません。

天保10年の拝殿建立から約160年後の2004年秋の「神幸祭」で、中国古来の舞をもとに創作した「龍舞」の神事が行われました。

拝殿の龍の約3倍の長さ25mの色鮮やかな龍が、太鼓やドラの響きに合わせ、躍動感あふれる舞を披露。

龍が水を飲みに行ったという伝説にちなんで、最後は水の代わりに樽酒を飲む場面で締めくくられ、瀧尾神社ゆかりの泉涌寺でも披露されました。

佐々貴宮司は「古い伝統を守り続ける神社があるなら、伝統に縛られない神社があってもいいのではないでしょうか。

神社はそれを信仰する人々との関わりがなければ成り立ちません。

神様と人とのつながりや地域の活性化を目指して、鳥取県の「鳥取醒龍團」のメンバーに手伝っていただいて新しい祭りを作りました」と熱い想いを語ります。



現在の本殿は「北山貴船奥院御社」旧殿を移建したもので、本殿の前には幣殿、拝殿、東西廊などが並んでいます。

これらの建物の屋根が折り重なることで生まれる独特の景観、一連の社殿が境内にまとまって現存していることなどが評価され、昭和59年に拝殿・拝所・幣殿・東西廊・手水舎など8棟が京都市指定文化財となりました。

江戸後期の中規模神社の形態を知るうえで貴重な場所とされています。

これらの建物には細部にまで立派な彫刻が施され、たくさんの動物をあちこちに見付けることができます。

本殿の階段を守る左右一対の猿などは、生真面目な表情がとってもユニーク。

ほかにも鳥や兎といった十二支や、鳳凰、獅子や麒麟など空想上の動物の姿も見えます。

幣殿正面の奥には鳳凰の顔を持ち、ウロコで被われた身体、鳥のような爪のある四本足の霊獣がいますが、何という動物か名前すらわかっていません。

水平材の先端の木鼻と呼ばれる部分を飾る獅子や獏の全身像など、ほかでは見られないほど豪華な造りです。

一部の彫刻は網で保護されており、回廊の外から見える部分も限られていますが、ぜひじっくりと眺めて職人のこだわりや遊び心を感じてください。

これらの彫刻は九山新太郎の手によるもの。
京彫刻の九山家は東本願寺、善光寺なども手掛け、当主は代々九山新之丞を名乗る名門です。

これほど豊富に施された彫刻装飾は、京都市内でも珍しいとされています。
全て彩色されていない彫刻ですが、江戸時代末期の円熟した芸術性を伝えています。

見事な彫刻といえば日光東照宮を思い起こしますが、日光にも瀧尾神社という同名の神社があるそうで、幕命による改名もそれにちなんだもののようです。

また平成12年に瀧尾神社境内へ一部が移された「三嶋神社」は、うなぎを描いた絵馬を奉納すると安産、子授けに御利益があるといわれ、秋篠宮さまがご参拝になったことでも有名になりました。

※秋の「新幸祭」は毎年、9月の最終日曜日に行われます。


今日もちょっと京都通。

美しい古都に思いを馳せつつ、おいしいお茶を飲みながら、はんなりとした時間をお過ごしください。

では、次回もよろしくお願いします



取材協力:瀧尾神社
京都市東山区本町11丁目718



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