地元の人から観光客まで多くの人で賑わう京都の繁華街、三条寺町。

その一角にある「矢田寺」の境内には赤いちょうちんがたくさん飾られ、訪れる者の心をほっと和ませてくれます。

矢田寺は平安時代初期の弘仁13年(822年)、天武・持統両天皇の勅願所として、「あじさいの寺」で有名な奈良の矢田寺の別院として建てられました。

もともとは五条坊門付近にあり、その後は火災によって下京区矢田町に移転。

さらに安土桃山時代の豊臣秀吉による区画整理で、北側にある本能寺とともに現在地に移されました。

境内に入るとまず目をひくのは、壁にびっしり掛けられた日本でも珍しい「ぬいぐるみ守り」。

お地蔵さんの姿をしたこの愛らしいぬいぐるみ守りは、なんとご住職夫婦の手づくり。

30年ほど前、「お地蔵さんがあるといいな」と思ったご夫婦。

しかし、小さなお寺で石仏を置くスペースがないということで、ぬいぐるみのお地蔵さんを六体作り、六大地蔵として置いたのが始まりなんだそう。

それが、「かわいい」と近所の方や参拝者の評判となり、やがて「売ってください」と言われるように。

そこで、サイズを小さくして、お守りとして販売することにしたのです。

フェルトで作られたお守りの中にはご本尊の札が縫い込まれていて、もちろん今もひとつひとつ手作りされています。

最後の顔を描くのは、ご住職の役目です。

良縁成就・安産祈願・無病息災などのご利益があり、このぬいぐるみ守りを求めて、全国から若い女性が訪れます。

お守りは持ち帰っても、願い事を書いて奉納するのも自由です。

特に苦しい恋にお悩みの方は、この愛らしいぬいぐるみ守りが救ってくださるかもしれませんね。



矢田寺には光仁7年(816年)に日本で初めてつくられたと伝わる地蔵菩薩がご本尊として祀られています。

このお地蔵様は「代受苦(だいじゅく)地蔵」と呼ばれ、人々の苦しみを代わって受けてくださるそう。

そこには、次のような説話が語り継がれています。

平安時代、閻魔大王は苦しみで蔓延する世の中に悩み、不安を抱いていました。

そこで受戒(仏の定めた戒律を受けること)を決意し、朝廷の高官で現世と冥界を行き来していた小野篁(おののたかむら)に相談します。

篁に「受戒するには当代きっての僧侶がよい」と勧められた閻魔大王は、大和国(奈良県)矢田寺の住職だった満慶(まんけい)上人を招きます。

そして、菩薩戒(ぼさつかい/菩薩が受持する戒)を受け、無事に苦を取り除くことができました。

そのお礼として、満慶上人には地獄の見学が許されました。

閻魔大王に案内してもらった満慶上人が地獄で目にしたのは、炎が煮えたぎる鉄釜に罪人が落ちていく姿でした。

ふと見上げると、一人の僧侶が鉄釜の中にいる罪人たちを助けているではありませんか。

その助けている僧侶こそが地蔵菩薩でした。

地獄から戻った満慶上人はその姿を刻んで、矢田寺に安置したのだといいます。

また、この様子が描かれた「矢田地獄縁起絵巻」が遺されており、国の重要文化財に指定されています。

ちなみに、満慶上人は地獄から戻る際、閻魔大王からお土産に小箱を授かります。

そこにはお米がいっぱい入っていて、いくら食べても尽きなかったことから、満慶上人はのちに「満米(まんまい)上人」と呼ばれるようになりました。



年の瀬も迫り、一段と冬の寒さが厳しくなる12月23日。

矢田寺では「かぼちゃ供養」が行われます。

繊維質のかぼちゃは血液の流れをよくしてくれることで知られており、昔から冬至の日に食べると、中風除けや諸病退散になるといわれています。

さらに「忙中閑あり」、つまり「師走のせわしない時期にこそ、かぼちゃを食べて心を落ち着けてもらいたい」というご住職の思いから、27年ほど前よりこのかぼちゃ供養が始まったのだそうです。

当日は法要が行われた後、柔らかく煮た栗かぼちゃが無料で接待されます(数量限定)。

このかぼちゃを求めて、多くの人が朝早くから列を作ります。

ほんのり甘いかぼちゃを食べると、心も体もホクホクに。

さらに12月始めから23日までは、なでるとご利益があるという大きな「なでかぼちゃ」が境内に奉納されています。

また、本堂前にある「送り鐘」。

これは五山の送り火が行われる8月16日に、ご先祖様が無事冥土に戻れるよう、鐘を突いて魂を送るというもの。

これに対して、六道珍皇寺ではご先祖様を迎えるための「迎え鐘」が行われます。

こちらはご先祖様の魂が間違わずに家族のもとへ帰って来られるように突く鐘です。

矢田寺では普段から自由にこの送り鐘をつくことができます。

その鐘の音波に願いをのせて、ご本尊の地蔵菩薩に手を合わせましょう。

すると、あらゆる苦が逃げていき、楽しいことだけが残るのだそうです。

※スマートフォン対応のタグ付けされたお守りの授与では一年間月変わりで法話が聴けます。

詳細は直接矢田寺までお問合せください。



今日もちょっと京都通。

では、次回もよろしくお願いします。



取材協力:矢田寺
京都市中京区寺町通三条上ル523
電話番号:(075)241−3608




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