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京都通

  • 2012/5/31

第252回 京菓子資料館『京菓子の奥深い世界を知る手がかりに』

日本のお菓子の始まりは果物やったんどす

「お菓子」を総称的に"スイーツ"と呼ぶ昨今。
その人気はますます高まり、時代とともに和洋のお菓子が自由に楽しめるようになってきました。
今回はまず、そんなお菓子が日本でどのようにして始まったのかをお話しすることにいたしましょう。

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その起源は日本書紀や古事記の時代にまでさかのぼります。
天皇の命により、常世国(とこよのくに/海の彼方にあるとされた理想郷)から田道間守(たじまもり/菓子の祖神)が持ち帰った橘(たちばな)の実。
これが日本でのお菓子の始まりと伝えられています。
お菓子というと、昔は果物や木の実のことを指していたのです。

奈良時代になると、人工的に手を加えた「唐菓子(からくだもの)」が中国から伝来しました。
唐菓子は神社仏閣のお供物として使われ、平安時代には貴族の宴卓に欠かせないものになりました。

さらに江戸時代に茶の湯文化が確立されると、家元が多く住む京の都では、茶会に求められる和菓子が一層の発展をみせます。
そして、茶道具にそれぞれ銘が付いていることから、和菓子にも「菓銘(かめい)」といって、趣のある名前が付けられるようになりました。

その後、世の中が安定した江戸時代後半には国内で砂糖が生産され、それまで貴重だった和菓子は、徐々に庶民の手に渡るようになっていきます。
当時の和菓子は現代とほぼ変わらない製法で作られ、様々な和菓子が考案されました。

そんなお菓子の歩みを分かりやすく紹介している施設が、京都御所の近くにあります。
「見て、食べて、感じる」ことのできる、その名も「京菓子資料館」です。

優美で細やかな糖芸菓子を堪能しておくれやす

この京菓子資料館では、唐菓子の模型や古くから伝わる資料を公開するとともに、国内でも希少な「糖芸菓子(とうげいがし)」を展示しています。
糖芸菓子は松や桜など四季の花鳥風月を本物さながらに作る装飾菓子で、菓子職人の技術が結集された芸術品です。
あくまで鑑賞用ですが、すべて食べることのできる材料で作られています。

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その中でも一際目をひくのが「華燭(かしょく)」と名付けられた作品で、その高さは幅ともに1メートル以上。
20年ほど前、結婚披露宴でお披露目するために、職人二人の手で半年かけて作られました。
おめでたい松竹梅や色鮮やかな牡丹が華やかに目に映ります。
約一万二千本ある松の枝も、もちろんすべて砂糖でできています。
糖芸菓子は非常に繊細で、触ると壊れてしまうため、持ち運ぶ際にはパーツごとにばらして、現地で組み立てるのだそうです。

一方、亀や鶴も糖芸菓子に表現されていますが、こちらは京菓子の特徴を組んだもので、象徴的・抽象的に作られています。
例えば鶴を表す時、京菓子では鶴を写実的に表すことはありません。
おそらく、白い生地に丹頂鶴のトレードマーク"赤い斑点"があるだけ。
つまり、京菓子というのは食べ手がイメージしながら、"遊び心"を味わうものなのです。

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展示室では、ほかにも唐菓子の見本や干菓子に使う木型、菓子を運んだ螺鈿(らでん)の菓子蒸籠(せいろう)、御所御用の資料、菓子の図案帳、さらには茶道具などもご覧いただけます。

お抹茶とともにお菓子をいただきまひょ

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京菓子の歴史に触れた後は、1階の茶室「祥雲軒」にて作り立ての上生菓子とお抹茶で一服いたしましょう(※有料)。
隣接する工場でその日に作られた数種の生菓子の中から、お好きなものをお選びいただけます。

椅子とテーブルを配した立礼式(りゅうれいしき)の茶室なので、どなたでも気軽に利用しやすいようになっています。
お菓子の歴史や背景を知った上でいただく和菓子は、これまでとはまた違う味わいに感じることでしょう。
遠い昔は、公家貴族といった上流階級だけが楽しんでいた贅沢品だったことを思うとなおさらです。

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また、祥雲軒の前には小さな坪庭があり、そこには澄んだ音色を奏でる水琴窟(すいきんくつ)があります。
そして、京菓子資料館の玄関アプローチにもご注目ください。
金閣寺から拝受された紅白梅の古木や竹林が配され、そこには京菓子に欠かせない四季を感じ取ることができます。
この情緒あふれる空間は、平成15年(2003年)に京都景観・まちづくり賞「優秀賞」に選ばれています。

京菓子資料館には国内外の観光客はもちろん、お茶をされている方やお菓子に関する仕事をされている方など、年間2万人以上の方が来られます。
年に1~2度は企画展も開催されています。
京の四季の移ろいを巧みに取り入れ、日本独特の変化を見せながら発展してきた京菓子の文化。
その奥深い世界を心ゆくまでご堪能ください。

※企画展「歴史をいろどる京菓子 -継承される江戸期の美-」
2012年7月5日(木)~12月10日(日)

取材協力 : 株式会社 俵屋吉富
〒602-0029 京都市上京区烏丸通上立売上ル
電話番号 : (075)432-2211

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