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京都通

  • 2020/5/23

第353回 霊源院『甘茶が咲くお寺で授与される多種多様な特別御朱印』

最高峰の学問のお寺やったんどすえ

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京都最古の禅寺として知られる建仁寺。その境内南東に、塔頭寺院の霊源院があります。

創建されたのは応永年間(1394年~1428年)。
日本にまんじゅうを伝えた龍山徳見(りゅうざんとっけん)和尚を勧請開山として、その弟子である一庵一麟(いちあんいちりん)和尚によって建てられました。

霊源院は鎌倉時代末期から室町時代にかけて、漢文学・五山文学の最高峰寺院とされ、"一休さん"こと一休宗純や、"海道一の弓取り"と称された戦国大名・今川義元、今川家に仕えた軍師で僧侶の太原雪斎(たいげんせっさい)らが修行した学問の寺として知られています。

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本堂に入ると、"関"と大きく書かれた衝立(ついたて)が目に飛び込んできます。

これは玄関の"関"を表していて、この玄関という言葉は禅宗の「玄妙の道に入る関門」からきています。
これが建物の名前になり、禅寺の方丈の入り口を玄関と呼んでいたのが、江戸時代になって一般の建物や民家にも広まっていったのだそうです。

二つのお茶室はえらい珍しいものなんやて

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"禅宗の開祖"といわれる栄西禅師は中国からお茶を持ち帰り、普及に努めたことから"お茶の祖"としても知られています。
そんなご縁もあって、霊源院には二つの趣ある茶室があります。
四帖半の茶席「也足軒(やそくけん)」はにじり口が外ではなく、室内にあり、一般的に城にある茶室の造りとなっています。

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一方、本堂南側にある「妙喜庵(みょうきあん)」は壁に花頭窓が作られていて、茶室としては最も小さい一畳台目の茶室となっています。
一畳台目は、茶の点前に必要な道具畳と、客が座るのに必要な一畳だけにまで切り詰めた究極の茶室とされています。

貴重な寺宝をじっくり見ておくれやす

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霊源院は年に一度、一般公開されていますが、通常は非公開です。
人目に触れる機会が少なかったため、数々の寺宝はかなり良い保存状態で残されています。

本堂には御本尊の薬師如来が祀られ、五山文学を代表する臨済宗の高僧・中巌円月(ちゅうがんえんげつ)の坐像が安置されています。
国の重要文化財の指定にもなっており、玉眼をはめ込んだその表情は見る者を圧倒する迫力があります。

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その隣には中巌円月坐像の胎内仏で、運慶(うんけい)の息子・堪慶(たんけい)によって鎌倉時代に手掛けられた「毘沙門天立像」があります。
胸甲を吊る帯を金属製にするなど細かい部分まで精巧に作られているのが分かります。
左手に持つ水晶の中には伝教大師最澄が持ち帰ったといわれる仏舎利(ぶっしゃり)が納めされています。

新しいお庭がついにお披露目されてるんやて

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これまであった「甘露庭(かんろてい)」が大規模に改修され、この春、新たな枯山水庭園「鶴鳴九皐(かくめいきゅうこう)」が完成しました。
これは昨年、今川義元の生誕500年を記念して作られたもので、世界的に活躍されている中根庭園研究所の中根行宏さんと中根直紀さんのご兄弟が作庭されました。

ちなみに、お二人の祖父は島根県にある足立美術館の庭園を手掛け、"昭和の小堀遠州"と称された名作庭家・中根金作さん。
また、作庭にあたっては静岡県の新居町にある東福寺で用いられていた庭石が提供されました。
新居町は中根金作さんとゆかりが深く、さらには東福寺のご住職と霊源院のご住職がかつて修行を共にした旧友であるご縁から実現に至ったのだそうです。

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新しいお庭はインドから中国、そして日本へと仏教が伝来した様子が表現されています。
嵩山少林寺(すうざんしょうりんじ)の達磨太師が座禅したという洞窟が再現され、座禅石にはインドのブッダカヤから運び込まれた岩が使われています。
前方には白砂が敷き詰められ、東シナ海を表しています。

また、このお庭には青く可憐な甘茶(あまちゃ)が咲きます。
甘茶はヤマアジサイの変種で、実は仏教と深いゆかりがあります。
毎年4月8日に行われるお釈迦さまの誕生を祝う「灌仏会(かんぶつえ)」「花祭り」などと呼ばれる仏教行事で、お堂を春の花々で飾り、仏像に甘茶を注いで参拝するならわしがあります。

甘茶の花は、最初は白っぽく、そして青になり、やがてピンクへと色が変わっていき、その移り変わりも大変見応えがあります。
甘茶が咲くのは5月中頃から。特に朝一番や雨降りの日がおすすめです。

※2020年(令和2年)の公開について、詳しくは霊源院の公式ホームページをご覧ください。

霊源院 公式ホームページ

いろんな御朱印があって、よりどりみどりやわ

どれを頂こうか、迷うほどにたくさんある霊源院の特別御朱印。
ここではいくつかピックアップしてご紹介しましょう。

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新しいお庭を作る際の完成イメージをモチーフにした左の御朱印には、「祖師 西来意」と書かれています。
禅の祖・達磨大師の心が中国から伝わってきたという意味です。

天下統一を目指した織田信長が用いた「天下布武」の朱印が中央に押され、その上に「是非に及ばず」と書かれた右の御朱印。
この言葉には「そうするしかない」、つまりは「すべてを受け入れる」という意味があります。
信長のサインも見られるという、大変珍しい御朱印です。

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今川義元の生誕500年記念に作られた左の御朱印には、今川義元のキャラクター"今川さん"が描かれ、そこには「昨日なし明日又しらぬ人はただ 今日のうちこそ命なりけれ」と書かれています。
これは「明日はない、今日あることに感謝して今を生きよ」という禅の教えです。

太原雪斎のキャラクターが描かれた右の御朱印には、大きく「麒麟」と書かれています。
大河ドラマ「麒麟がくる」に義元も雪斎も登場していますので、ドラマとともに是非、押さえておきたい注目の御朱印です。

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「龍吟(りょうぎん)」「虎嘯(こしょう)」と書かれた二枚の御朱印。
その二文字には「龍吟じて雲起こり、虎嘯(うそぶ)きて風生ず」という禅の言葉からきており、「竜が鳴けば雲が生まれ、虎が吠えれば風が生まれる」という意味があります。
つまり、同じ考えや心をもった者は相手の言動に気持ちが通じ合い、互いに相応じ合うということです。

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柔和な表情に癒やされる、京狩野の祖・狩野山楽の水墨画「布袋図」の御朱印(左)。
みんなに愛され、一緒にいるだけで幸せになれる布袋さんは、禅の最終形態といわれています。

北方の守護神・毘沙門天が描かれた左の御朱印は迫力満点。
毘沙門天には開運勝利のご利益があります。

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甘茶の写真を印刷した紙に金色で「甘露」と書かれた左の御朱印は、「甘露のごとく みなの苦しみの心を癒してくれる」という思いが込められた、思わず飾っておきたくなる素敵な御朱印です。

左の一休禅師の御朱印に書かれているのは「大丈夫 心配するな なんとかなる」という言葉。
庶民を救ってきた一休禅師の生き様を表した、心がホッとなる御朱印です。

ほかにも、新しい御朱印が度々登場するとのことで、何度訪れても新しい出会いが待っています。

※特別御朱印は終了しているものもあります。また、すべて書き置きとなっていますのでご了承ください。

御朱印あれこれ「とっても便利な書き置きの御朱印」

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一般的に、御朱印にはその場で御朱印帳に直接記帳していただくものと、あらかじめ紙に書かれている書き置きがあります。
書き手が不在の場合は書き置きが用意されていることもありますし、最近では趣向を凝らした御朱印や色紙に書かれた御朱印が増えているので、書き置きでいただくことも多いかと思います。

書き置きの御朱印をいただいた後はそのままにせず、御朱印帳にのりや両面テープで貼ってから保管してください。
その際、帳面より大きくてはみ出す場合はハサミで切っても問題はありません。

ただ、文字がはみ出す場合は大きめの御朱印帳に貼るか、クリアファイルなどで別に保管するか、もしくはアート感覚で額に収めて飾ってみるのもいいかもしれませんね。

取材協力 : 霊源院
〒605-0811 京都市東山区大和大路四条下ル小松町594
FAX番号 : (075)277-1118

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