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京都通

  • 2018/8/11

第337回 正寿院『ハートの窓と風鈴が出迎えるフォトジェニックなお寺』

鎌倉時代の仏師・快慶作のお不動さんがあるんどす

今回は京都市内から少し足を延ばして、緑あふれる自然に囲まれた宇治田原町へ。
今、この町にある正寿院が大きな話題を集めており、連日、全国から多くの方が参拝に訪れます。
正寿院はおよそ800年前に建てられた高野山真言宗のお寺で、飯尾山にかつてあった医王教寺(いのうきょうじ/養老元年717年創建、現在は廃寺)の塔頭寺院として建立されたと伝わっています。

まずは受付を済ませて本堂へお参りしましょう。
250年前に建てられ、7年前に改築されたこの本堂には御本尊「十一面観音菩薩」(鎌倉時代~後期)が祀られています。
町の文化財に指定されているこの十一面観音菩薩は、秘仏として扉の中に大切に安置されているため、その姿を拝見できるのは50年に1度だけなのだそう。
前回が1990年だったので、次に扉が開かれるのは2040年になります。
お参りする際には、天井から下ろされたひもを両手にはさんでお願い事をするようになっています。
このひもをたどると、観音様の右中指と薬指に結ばれており、私たちと観音様のご縁を結ぶということで、「結(ゆい)のひも」と呼ばれています。

また、このお寺は戦国、江戸と2度の火災に見舞われましたが、ご本尊はそのどちらの火災からも免れたため、厄除けや健康にご利益があるとされています。

そして、木造の「不動明王坐像」(鎌倉時代)は日本を代表する仏師・快慶の作で、こちらは国の重要文化財に指定されています。
快慶といえば、阿弥陀如来など優しい顔をした仏像を得意とする仏師で、怒った顔をした仏像は大変珍しいとされています。
実際、快慶作の忿怒相(ふんぬそう)の仏像は歴史的にも貴重で、日本に六体しか現存していません。
像高は45センチとそれほど大きくはありませんが、力強く凛々しい表情が特徴で、睨みの眼は鋭く迫力があります。

ハートの窓に乙女心がキュンキュンしますえ

本堂と道を挟んで建てられた客殿「則天の間」では、正寿院を一躍有名にしたかわいらしいハートの窓が参拝者を出迎えます。
お寺にハートとは斬新だと思われるかもしれませんが、この窓は「猪目窓(いのめまど)」といって、昔から茶室などに多く使われ、実際この客殿でもお茶会が催されます。
猪目とは日本古来よりある伝統的な文様で、文字の通り、猪(いのしし)の目に似ているところから付けられたなど諸説あり、「災いを除き、福を招く」という意味が込められています。
実は、約1400年前から寺社仏閣の建築装飾として、釘隠しなどによく使われている文様で、このお寺の本堂でも見ることができます。

窓の向こうには灯篭があり、その向こうには緑が広がり、近くに流れる小川のせせらぎや風の音、鳥の声に耳を澄ましながら、五感で自然を感じられます。
春は桜、夏は新緑、秋には紅葉、冬には雪景色と、四季折々にさまざまな風景が楽しめることから、何度も足を運ぶリピーターが多いそうです。
また、季節や時間帯によっては、窓の向こうから陽が射すことで、手前の床にハートの影がうつります。
この影は「幸せのおかげ」といつしか呼ばれるようになりました。

そして、もう一つの撮影ポイントは、1年半ほど前に完成したカラフルな花の天井画です。
日本を代表する書家の祥洲さんや、福田匠吾さんをはじめとする日本画家のみなさんが、日本を感じる風景や花をテーマに描いたもので、160枚すべて絵柄が違います。
実は本堂内陣にも江戸時代の天井画があり、そこには曼荼羅(まんだら)が描かれています。
曼荼羅は仏教的には「みんな違ってみんないい」ということを表すことから、こちらの花の天井画には著名な先生方に混じって、これからプロを目指す美大生の絵も一緒に飾られています。

また、四つの角には守護神(青龍、白虎、朱雀、玄武)があるほか、春夏秋冬の舞妓さんの絵が4枚隠れているので、探してみるといったお楽しみもあります。
さらには寝転んで天井を眺めていただけるので、よりリラックスできる空間となっています。

ハートの窓は「インスタ映え」という言葉ができる以前に完成したのですが、瞬く間に口コミで広がり、今ではカメラ好きの方や流行に敏感な女性にとって、一度は訪れたい注目のスポットとなっています。

風鈴まつりで涼を感じておくれやす

毎年7月1日から9月18日まで「風鈴まつり」が行われ、この町の夏の風物詩となっています。
境内いっぱいに吊るされた彩り豊かな風鈴にはあじさい、花火、蛍、金魚など、夏らしい絵が描かれており、風が吹くたびにチリンチリンと涼しげな音色を奏でます。
中でも、ひまわりや桔梗、夏つばきなどの造花が入ったかわいらしい風鈴は、お寺のスタッフの手作りで、なんとも心温まるものがあります。
また、山間部に位置するため、京都市内よりも5度ほど気温が低く、風鈴の音色によってさらに涼を感じていただけます。

もともと風鈴の原型は、お寺に吊るされている「風鐸(ふうたく)」という青銅製の鈴で、厄除けや魔除けとして付けられています。
鈴の音が聞こえる範囲は聖域だといわれ、災いが起こらないと考えられていることから、日本の涼を感じ、そして暑気払いや厄払いを感じていただきたいという思いから、この風鈴まつりは7年前から始まりました。
風鈴の数も徐々に増え、今では約2000個もの風鈴が、周囲の茶畑や山々一体に涼しげな音を届けています。

そして、本堂には加賀水引風鈴(石川県)や花笠風鈴(青森県)、さらにはゆるキャラの風鈴など、日本各地から集められたご当地風鈴が展示されています。
ご自身にゆかりのある土地の風鈴を探したり、それぞれ音の違いに耳を傾けてみたり、思い思いにお過ごしいただけます。
また、風鈴の絵付け体験は、当初は子供たちのためにと始められたそうですが、今では童心に返れると多くの大人の方が体験していかれます。
そのほか、数珠づくりや写経・写仏など様々な修行体験もできます。
中でも、お庭を見ながらできるヨガは、予約でいつもいっぱいの人気プログラムとなっています。

さらに、8の付く日(8日、18日、28日)に拝観すると、願いが叶うという「叶紐(かのうひも)」が授与されます。
持ち帰ってお守りにするほか、境内にある地蔵堂に願いを込めて結ぶ方もいらっしゃいます。
拝観すると、緑茶発祥の地といわれる宇治田原町産の香り高い緑茶と小さなお菓子が付いてきますので、是非、お庭を眺めながら、ゆっくりとした時間をお過ごしください。

※今年の風鈴まつりは混雑緩和のため、事前申し込み制となっています。また、各種体験も事前予約制です(風鈴の絵付け体験は予約不要)。拝観できない日もございますので、お寺の公式ホームページでご確認ください。

取材協力 : 正寿院
〒610-0211 京都府綴喜郡宇治田原町奥山田川上149
電話番号 : (0774)88-3601
FAX番号 : (0774)88-3969

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