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京都通

  • 2009/7/18

第135回 三嶋神社 『神様の使者である鰻に子授けを願って』

牛若丸の運命も左右したんえ

大きなマンションの影に隠れるように、ひっそりと佇んでいる三嶋神社(みしまじんじゃ)。
あまり観光本などに取り上げられることがないため、今となっては京都人の間でもあまり知られていない、知る人ぞ知る子授け神社です。
しかしながら、平安時代には、三嶋大明神が子授けの神様としてかなり評判が高かったことがわかる逸話が残っています。

それは後白河天皇の中宮であった平滋子建春門院様が、皇子がないことを嘆いていた折、世間の人々から「三嶋大明神は子を授け給う神なり」と教わって以来、三嶋大名神を崇敬されるようになったというもの。
その後、高倉天皇を身ごもられ、これを喜んで後白河天皇が社殿を建てたのが、この三嶋神社の始まりです。

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そもそも三嶋神社は、摂津の国(現在の大阪府高槻市)の三島鴨神社(みしまかもじんじゃ)の御分霊をもらって建てられたのが由縁です。
中宮様がお祈りされていたのは、この三島鴨神社の三嶋大明神だったのです。
そして、大阪の三島鴨神社・静岡の三嶋大社・愛媛の大山祇神社(おおやまずみじんじゃ)は、三大三島社といわれています。
ちなみに、"三島"や"三嶋"と表記が異なるのは、時代によって変化して現在の表記になったため、漢字の深い意味は不明です。

三嶋神社には、ほかにも「揺向石(ようこうせき)」という結び(良縁・夫婦和合・家内安全)の御神徳のある神石も鎮座しています。
かつて牛若丸(源義経)が同神社に参籠した際、夢の中に白髪の翁が現れ、「汝、志久しからず、早々に奥州に下るべし」との御神徳を得ます。
そして夢から覚めて再拝し、翁が立っていた所を見ると、この石があったという逸話が残っています。

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それ以来、「揺向石」といわれ、妊婦が同神社に参詣して男子を祈願し、この石に触れた手でお腹を撫でると、牛若丸のような立派な男子が授かると伝えられるようになりました。

ご祈願中は、鰻を食べんといとくれやす

では、なぜ三嶋神社は子授け神社といわれるようになったのでしょうか。

こちらの友田宮司様によれば、三嶋大明神の"三"とは、火の徳・土の徳・水の徳という3つの徳を表しているそうです。
この火・土・水は、"生命の源"と考えられていました。
現在では中国から伝わってきた陰陽五行説が有名かもしれませんが、農耕民族であった古代の日本人に、農業に必要な太陽を表す火・土・水の3つがなければ生命は誕生しないという、土火水(どかすい)の信仰が生まれたのでしょう。
この3つの要素をもっているのが鰻であったため、鰻が三嶋大明神の使者といわれるようになったと推測されています。

最近の研究で明らかになってきたことですが、鰻は黒潮に乗って日本にやってきて川へ登り、沼地や川で成育するそうです。
また、鰻のいるところは土地が肥えているといわれ、焼畑農業が主流だった古代の日本では、鰻が土火水の要素をもっていると考えたことは不思議ではありません。
ほかにも、御神徳が宿るために鰻を食べると体が温まり、風邪などの病を退ける、といった説も書物に残されています。

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ただし、妊婦にはよくないという文書も残っており、こちらで祈願する場合、子どもを産むまでは鰻を食べてはいけないという禁食信仰が守られています。
祈願の流れとしては、子授けを祈願する場合は2匹の鰻が描かれた絵馬に、安産を祈願する場合は3匹の鰻が描かれた絵馬に願いを書き込み、神社で祈願してもらいます。
そして子どもが産まれ、お礼参りをするまでは、神様の使者である鰻を食べてはいけないとされています。

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ただし産後は、体力を戻すために鰻を食べてもいいそうです。
この絵馬による祈願は、瀧尾神社にある祈願所はもちろん、本宮でもできます。

鰻の供養もしたはります

土火水の3つの御神徳(土は万物の母であり、火は万物の大気、水は万物の源)をもつ三嶋神社では、子授けや安産、夫婦和合などのほかに、避妊の祈願や水子の慰霊(供養)などまで、あらゆる生物の出生、成育、放生を守護しています。

そして鰻を神様の使者としているつながりもあって、江戸時代後期に鰻商人からの要望で、鰻の供養をする「鰻祭」が催されるようになりました。
こうして鰻に関わる仕事をされている方々が全国から集まるようになり、鰻の供養をされるそうです。
現在も毎年10月26日になると、三嶋神社の祈願所がある瀧尾神社で鰻祭は開催され、池に3匹の鰻が奉納されています(数日後に鰻は鴨川に放たれます)。

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三嶋神社の社紋は、角切り折敷(お供えするときの箱のこと)に、波打つような"三"が描かれているのですが、これは、土火水の御神徳を表しているという説と、鰻を3匹お供えしていたからという説があるそうです。
このように、様々なことが想像できるのも社紋の興味深いところですね。

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現在残されている三嶋神社の本宮は、たいへん小さな社ですが、ナマズの研究をされている関係からか、1994年に秋篠宮様もご夫婦で御参詣されています。
その祈願が叶ったことはご周知のこと。
やはり「子は天からの授かりもの」ということでしょうか。

また、由縁となった高倉天皇といえば、後に平清盛の娘、平徳子と結婚し、「平家物語」でも有名な安徳天皇の父となる人物。
三嶋大明神とのご縁がなければ、平家物語の名場面ともいえる壇ノ浦の戦いの物語は少し変わっていたのかもしれないなどと、歴史に思いを馳せながら訪ねるのもおもしろいものです。

少し場所はわかりづらいかもしれませんが、多くの観光客が行き交う東大路通のバス停「馬町」から向かうとわかりやすいと思います。
東大路通から東へ延びる渋谷通(しぶたにどおり)の坂を登り、北側にあるマンションの間の細道を探せば三嶋神社の旗が見えます。
その細道を進めば、すぐに見つけられるでしょう。

取材協力 : 三嶋神社
本宮鎮座地 : 京都市東山区東大路通東入上馬町3丁目
祈願所鎮座地 : 京都市東山区本町11丁目718番地 瀧尾神社境内地内
電話番号 : (075)531-5012

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