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京都通

  • 2009/10/10

第147回 平安神宮『秋の平安神宮で雅にひたる文学散歩』

平安神宮は秋も見どころ満載どす

第4回内国勧業博覧会の記念モニュメントとして、明治28年に建立された平安神宮。
平安京を拓いた桓武天皇を祭神として、国家の威信を示すため建立された平安京の朝堂院を模した社殿が見事です。

秋になると結婚式のカップルや、七五三の礼装をした可愛らしい子供たちが、さらに華やかな色彩を添えてくれます。
平安神宮のある岡崎あたりは平安期には貴族の別荘地でしたが、応仁の乱で荒廃して、明治の頃には農地になっており、蹴上から鴨川の土手まで見渡せたといいます。
逆に、何もなかったから博覧会場として最適だったとも言えますね。

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勧業博覧会の開催を市民総出でお祝いするために始まった時代祭は、京都文化の象徴として現在に至るまで受け継がれています。
毎年10月22日の時代行列は誰もが知る大イベントですが、その前後にもいろいろな行事が行われます。

まず、10月15日は宣状授与祭として、祭にたずさわる役職や、豊臣秀吉、織田信長、和宮といった人物に扮する人たちに任命書が手渡されます。
午後からは時代祭奉祝踊りの足固め。
第70回を記念して昭和48年に作られた奉祝踊りの合同練習を、地域婦人会連絡協議会の方たちが集まって行います。

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本番の祭では御池通と神宮道の2カ所で披露されます。
17日は茶壺の奉納と口切りが行われる神嘗奉祝祭併茶壺奉献祭。
20日には祭に使う装束や道具類を収納庫から取り出して準備をする倉出しがあります。
回廊に並べて準備するので、御鳳輦の飾り付けなどは邪魔にならないように様子を見ることもできるそうです。

南神苑は雅な平安の庭なんどす

桜の名所として知られる平安神宮ですが、秋ならではの別の趣もあります。
社殿を取り囲むように配置された神苑の木々が赤や黄色に染まる様は、まさに錦織りなすといった光景です。
池の水も澄んできて、秋風が水面を揺らします。それでは、秋の風情が楽しめる神苑へご案内しましょう。

代表的な日本庭園として海外にも広く知られる神苑は、約1万坪の土地に東・中・西・南と4つの庭で構成される池泉回遊式庭園です。
大小の池を含めすべて人の手で造られたもので、高低差をつけて水の流れを作り、東山を借景にするなど、優れた明治の回遊式庭園であるとして昭和50年、国の名勝に指定されています。
庭師は7代目小川治兵衛。
陰陽思想に基づき、入口の南神苑から続く薄暗い森を抜けると、次第に明るく大きく晴れやかに変化するよう作庭されています。

西・中神苑は明治28年に、東神苑は明治後半から大正にかけて完成しましたが、南神苑は昭和43年に孝明天皇100年祭を記念して造園されました。
それまで樹木の茂る森だった場所に、造園家・中根金作が曲水の宴を想定した雅な庭を再現、「平安の苑」として公開されています。

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この庭は平安時代の庭園様式である野筋(のすじ : 細く入りくんだ道)と、遣水(やりみず : 幾重にも曲がりくねった水路)により構成されたしっとりとした空間になっています。
あちらこちらに竹取物語、伊勢物語、古今和歌集、枕草子、源氏物語などの古典文学に登場する植物180種類が植えられ、その文章一節が書かれた案内板が立っているので、十二単の姫君気分で文学散歩を楽しむこともできます。

これらの神苑は京都市民の憩いの庭として親しまれ、毎年、秋と春の2回無料で公開されています。
いつも美しい姿で鑑賞してもらえるよう、庭師5~6人が常駐して花が終われば追肥をするなどの手入れをされているそうです。

秋の七草を知ったはりますか?

南神苑の東屋(あずまや)の近くに秋の七草を集めた一角があります。
秋の七草は「万葉集・巻8」に収められている山上憶良(やまのうえのおくら)の歌がもとになっています。

「秋の野に 咲きたる花を指折りて かき数ふれば 七種の花」
「萩の花、尾花、葛花、撫子の花、女郎花、また藤袴、朝顔の花」

お粥などに入れて食べる春の七草とは違い、秋の七草はその姿や花を愛でる植物が集められています。
どれも華やかさはありませんが、日本人好みのはかなげで静かなイメージです。

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萩は万葉集でいちばんたくさん詠われている植物。お彼岸に食べるおはぎの名前もこの花に由来します。
尾花はススキのこと。中秋の名月の観賞には欠かせませんね。
葛(クズ)は生命力旺盛な植物です。根は風邪などに効く葛根という薬になります。
撫子(ナデシコ)は清楚な日本女性を大和撫子と呼ぶように、花の形と色がなんとも可憐。
黄色い小さな花をつける女郎花(オミナエシ)。
香料や薬草として使われる藤袴(フジバカマ)は、絶滅危惧種に指定されています。
万葉時代の日本にはなかった朝顔(アサガオ)については、長く論争が続きましたが、桔梗(キキョウ)のことである、というのが今の定説となっています。

皆さんは秋の七草を言えますか?
それぞれの頭文字を並べて「ハスキーなおふくろ」または「お好きな服は?」と語呂合わせで覚えると簡単ですよ。

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南神苑には他にも見逃せないものがあります。
入ってすぐのところにあるのが有名な「紅しだれ桜」。
谷崎潤一郎の『細雪』に出てくる名桜で、現在の木は3代目だそうです。
また隅の方には日本最初のチンチン電車も展示されています。

秋の一日、静かな雰囲気に浸りたいなら、平安神宮の神苑がおすすめです。

取材協力 : 平安神宮
〒606-8341 京都市左京区岡崎西天王町
電話番号 : (075)761-0221

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