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京都通

  • 2011/7/9

第229回 長楽館『大正のロマンチシズム香る、洋風建築の代表格』

各国の著名人をお迎えする、迎賓館やったんどす

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かつて国内外の賓客をもてなし、夜ごと華やかな晩さん会が繰り広げられたという『長楽館』。
観光名所である円山公園の南側に建つ、ルネサンス様式のその立派な洋館は、京都東山に生まれた実業家・村井吉兵衛(むらいきちべえ)の別邸でした。

日本初の両切り紙巻きタバコの製造・販売で、”明治のタバコ王”と呼ばれるまでに成功を収めた村井氏が、私財を投じて建てたもの。
完成したのは今から100年以上前の明治42年。まもなく大正時代に入ろうとする頃でした。
ここを訪れたのはイギリスの皇太子ウェールズ殿下やアメリカ副大統領フェアー・バンクス、アメリカの財閥ロックフェラー、政治家の西園寺公望や山縣有朋、大隈重信と、そうそうたる顔ぶれが名を連ねます。

また、「長楽館」を命名したのは初代内閣総理大臣の伊藤博文。彼は長州藩士・木戸孝允(=桂小五郎)のお墓参りに訪れた際、完成直後のこの館に滞在し、東山の見事な眺望を歌に詠みました。
その歌に込められたのは「楽しみが長しえに続きますように」との思い。「長楽館」の名はその歌から付けられました。
館内には伊藤博文が書いた立派な扁額(へんがく=門戸や室内に掲げる横に長い額)が飾られています。

昭和61年には家具を含めて、この長楽館の建物すべてが京都市指定有形文化財に指定され、現在は喫茶やレストラン、ホテルとして一般の方が気軽に利用できる施設となっています。

ハイカラでシャレたお部屋がようさんおます

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ルネサンス様式を基調とした外観は派手さこそ感じませんが、中に入るとその印象は一転。ロココ、ネオクラシック、イスラムといったさまざまな様式のお部屋があり、豪華絢爛という言葉がぴったり。
西欧のアンティーク家具をはじめ、シャンデリアやステンドグラスなど贅を極めた調度品が当時のまま残されています。

かつては応接室だった「迎賓の間」は、曲線状の装飾が特徴のロココ様式。日本の洋館で現存する唯一のロココ様式といわれています。
一角には個室のようなスペースがあり、「きっと御婦人方がお喋りに夢中になっていたのでは…」、と楽しい想像も膨らみます。
そのほか、紳士方がビリヤードに興じた「球戯の間」や元温室の「サンルーム」、美術品を陳列していた「美術の間」などがあります。

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また、「喫煙の間」が建物の中心に位置しているのは”タバコ王”の邸宅ならでは。当時も今も喫煙スペースとして使用されており、装飾は中国風。床にはイスラムタイルが張られ、ステンドグラスには羊飼いや城が描かれるなど、洋館の中でも異彩を放っています。
そして3階には、大正3年に改築された書院造りの和室やお茶室があります(通常非公開)。その和室は、村井氏の一人目の奥様が亡くなられ、明治天皇の元女官の方が後妻に入られた際、今の姿に改造されました。
「御成の間」と名付けられたその和室は、格式高い格天井を備えています。一つの建物の中に、華やかな洋室と落ち着いた和室との異空間が、見事に調和しているのです。

現在、喫茶やお食事で利用できるのは3階以外の全10室。館内には暖炉があり、冬には薪が焚かれるので、ノスタルジーな雰囲気がより一層高まります。
どのお部屋に案内されるかは…、訪れた時のお楽しみに。

贅を極めた調度品やインテリアを味わっておくれやす

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長楽館は喫茶やお食事のほかにも、結婚式やパーティー、お茶会などに利用することができます。
お部屋の仕様を変えて、レストランウェディングをすることも可能です。
豪華な洋館を自宅に見立て、来賓客をお招きできるのは、花嫁にとって大きな喜びかもしれませんね。
また、以前はレディースホテルが併設されていましたが、平成19年にリニューアル。今はすべての客室に暖炉を設えた全6室のラグジュアリーホテルとなっており、最高のおもてなしが受けられます。
看板や入り口など、ホテルの存在を示すものが一切なく、まさに隠れ家的なお宿といえるでしょう。

ぜひ長楽館を訪れる際は、室内のあらゆるところにある柏を象ったレリーフにもご注目ください。玄関ドアの取っ手部分、階段、柱など…、村井家の家紋が「三つ柏」であったことから、モチーフとして多くの場面で使われています。
そして喫茶のコースターには、村井氏の手掛けたタバコの銘柄「サンライス」や「ヒーロー」のデザインが。その斬新なデザインも気のきいた演出のひとつです。

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贅の限りを尽くした室内の装飾、多くの人が愛したアンティーク家具や調度品を眺めながら、古き良き大正時代に思いを馳せれば…。立派な髭をたくわえた燕尾服姿の紳士が目の前に現れ、談話室では御婦人方の笑い声が聞こえてきそうです。
ぜひ、時代の栄華を極めたこの長楽館で、明治・大正のクラシカルな雰囲気を味わってみてはいかがでしょう。

取材協力 : 長楽館
〒605-0071 京都市東山区衹園円山公園
電話番号 : (075)561-0001

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