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京都通

  • 2011/11/2

第238回 天龍寺『嵐山を借景に配した名庭に、禅の心を映し出す』

京都五山第一を誇る格式高い禅寺なんどす

京都の中でも人気の高い観光地・嵐山。大堰川(おおいがわ)に架かる渡月橋の優美な姿は、嵐山を代表する風景として、昔から多くの人々に安らぎをもたらしてきました。
その渡月橋から歩いてすぐのところにある天龍寺は、広大な寺域を誇る臨済宗天龍寺派の大本山。
室町時代には幕府の庇護を受け、京都五山(京都禅宗寺院の格付けの上格五寺)の第一位に位置づけられた、格式ある禅寺です。

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創建は暦応2年(1339年)。
時の将軍・足利尊氏が、後醍醐天皇(ごだいごてんのう)と南北朝の戦いで亡くなった人々の冥福を祈るために、朝廷の別邸跡に建てたのが始まりです。

開山(寺院を開創した僧)に迎えられたのは、尊氏が絶大な信頼をおいていた高僧・夢窓疎石(むそうそせき)。
尊氏は、建武の新政を始めた後醍醐天皇に反旗をひるがえし、天皇とは対立関係にありました。
しかし、この夢窓国師の説得があったからこそ、尊氏は天皇崩御に際して、鎮魂のために天龍寺を建立するに至ったのです。

また、寺院を造営する費用を調達するため、「天龍寺船」と呼ばれる貿易船を就航させ、中国・明と貿易することを進言したのも夢窓国師。
その貿易で得た莫大な利益を投じて天龍寺は大いに繁栄し、当時の境内は嵐山一帯に広がっていました。
平成6年(1994年)には世界文化遺産に登録され、今なお多くの参拝者で賑わっています。

曹源池庭園の雄大な風景を楽しんでおくれやす

山門をくぐって長い参道を歩き進むと、白壁が印象的な法堂(はっとう/僧侶が講義する建物)が正面左手に現れます。
この建物の天井には、現代の日本画家・加山又造による「雲龍図」が描かれています。
直径9メートルの円相(円形を一筆で書いたもの)の中に、龍が躍動する姿は迫力満点。
どこに立っても龍が睨んでいるように見えることから、「八方睨みの龍」と呼ばれています。

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次に、法堂の北側にある参拝受付がある庫裏(くり/僧侶が居住する建物)に入ると、「達磨図(だるまず)」に出迎えられます。
これは禅宗の開祖・達磨大師の姿を描いたもの。
なんともユニークな達磨さんのお顔を眺めていると、荘厳な寺院を前に緊張していた心が、スッと解きほぐされる思いがします。

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そして大方丈(おおほうじょう)に進むと、今度は目の前に雄大な庭園が広がります。
苔寺の名で知られる京都の西芳寺(さいほうじ)や、鎌倉の端泉寺など数々の名庭を手掛け、作庭家としても名高かった夢窓国師。
彼はここ天龍寺の庭にも禅の境地を取り入れ、周囲の嵐山や小倉山を借景にした「曹源池庭園(そうげんちていえん)」を造り上げました。
天龍寺はこれまで応仁の乱の戦火など8度もの火災に見舞われ、多くの建物は再建を繰り返してきましたが、庭園だけは創建当時の面影を残しています。
また、日本で初めて史跡の特別名勝に指定されたことでも知られています。

庭園にある池の正面奥には、三段の石で滝を表した「龍門瀑(りゅうもんばく)」があります。
その二段目の石は滝を登る鯉の姿を表現しています。これは、中国黄河の急流にある三段の滝を登った鯉が、龍になって天空に舞い上がるという伝説をあらわしたもの。
そこから立身出世や成功のための関門のことを表す「登竜門」という故事が生まれました。
その滝の前に架けられた石橋は、現存する日本最古の石橋。
大方丈の縁側に座って、このさまざまな風景を眺めたり、時には瞑想したり、みなさん思い思いの時を過ごされています。

※「雲龍図」は春・秋の特別参拝時と土日祝のみ公開。2011年秋の特別参拝は12月4日まで。

早朝参拝では、神秘的な光景に出会えますえ

参拝者がお庭の風景を眺められるのは、太陽が昇り、沈むまでの間だけで、ライトアップによる参拝は行われていません。
それは、今なお多くの僧がここで修行をしているから。
お庭は雲水(うんすい/禅宗の修行僧にとっては厳しい修行の場。
夜間、月明かりの下で座禅を組む「夜坐(やざ)」と呼ばれる修行があるため、一般には開放されないのです。

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その代わり、毎年11月中旬から12月初旬にかけて、「早朝参拝」を行っています。
地方から夜行バスで来られた方、また朝早くから寺院を見て回りたいという方のために、朝7時半から門が開かれます。
「早朝参拝」は5~6年ほど前から始まったのですが、その静けさを乱さないよう、宣伝などは行わず、口コミで徐々に広まってきたそうです。

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早朝参拝をする理由はここ嵐山の立地条件にもあります。
京都市内は盆地であるため、東から昇った太陽の光は、東山のふもとよりも先に、西にある嵐山に差し込みます。
つまり、天龍寺のお庭の真ん中を、スポットライトのごとく朝日がポッと照らすのです。
早朝のピンと張りつめた空気の中、紅葉する木々には露が落ち、池の上にはうっすらと朝もやが架かります。
昼間には決して見られない、そんな神秘的な光景を目の当たりにできるのです。
まさに「早起きは三文の得」とはこのことかもしれませんね。

また、お庭の奥に広がる「百花苑(ひゃっかえん)」では、200本以上のソメイヨシノやしだれ桜をはじめ、シャクナゲやレンギョウなど、季節の花々が参拝者の目を楽しませています。
桜や紅葉の時期だけでなく、多くの花々が咲き誇る百花苑で、ぜひ四季それぞれの表情をお楽しみください。

※「早朝参拝」は朝7時半から。
2011年は11月12日(土)~12月4日(日)と11月の土日祝のみ参拝可能。

取材協力 : 大本山天龍寺
〒616-8385 京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町68
電話番号 : (075)881-1235

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