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  • 2015/5/16

第298回 松花堂庭園・美術館『寛永の一流文化人ゆかりの洛南随一の名園』

ここは松花堂弁当の"ふるさと"なんどす

今回ご紹介する「松花堂庭園・美術館」は、「伊藤久右衛門」本店がある宇治のお隣、八幡市にあります。
松花堂というのは人の名前で、この近くにある男山・石清水八幡宮の寺坊の一つ「滝本坊(たきのもとぼう)」の住職を務めた松花堂昭乗(しょうかどうしょうじょう)のこと。
江戸時代初期、寛永年間に活躍した昭乗は、僧として最高の位である阿闍梨(あじゃり)の位にまで上り、近衛信尹(このえのぶただ)、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)と共に、「寛永の三筆」と評された書の達人で、書画や和歌、茶の湯にも通じた一流の文化人でした。

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寛永14年(1637年)に住職を退いた昭乗は、「泉坊」という寺坊に草庵「松花堂」を建て、晩年を過ごしました。草庵「松花堂」は明治の神仏分離の際に山麓に移され、さらに明治24年(1891年)に現在地に移築されました。
昭和52年(1977年)より八幡市の所有となった「松花堂庭園」では、草庵「松花堂」をはじめ、茶室や書院、広大な庭園を一般に公開しています。
また、平成14年(2002年)4月にオープンした「松花堂美術館」では年間を通じて、松花堂昭乗が遺した作品や昭乗ゆかりの人たちの美術品を展示する館蔵品展や企画展などを開催しています。

ちなみに、「松花堂」というと、四角い塗り箱に懐石料理を盛り込んだ「松花堂弁当」を思い出す方も多いでしょう。
昭乗は農家で種入れに使っていた四つ切箱(田の字に仕切られた箱)を、絵の具入れや茶席の煙草盆として用いたと伝わります。
それから時を経て、その四つ切箱からヒントを得た湯木貞一氏が、懐石料理の弁当を創作。
湯木氏は四つ切箱に蓋をつけ、昭乗に敬意を払って「松花堂」の焼印を蓋に押し、自身の店である「吉兆」で客に提供しました。

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今では同様の四つ切の弁当が、松花堂弁当として広く知られています。
「松花堂庭園・美術館」に併設されている「京都吉兆 松花堂店」では、昔からの伝統や旬を味わえる松花堂弁当やお抹茶セットなどを頂くことができます。

※5月23日(土)~6月23日(日)は「館蔵品展I(仮)」を開催。
松花堂昭乗の筆になる「鶏図」や、松花堂弁当の器のルーツとして知られる「松花堂好四つ切塗箱」をはじめ美術館所蔵の書画、工芸品などを紹介します。

昭乗はんは茶の湯をほんに楽しんだはったんやなぁ

約2万2000平方メートルに及ぶ広大な庭園は、内園と外園から成ります。
内園は国史跡・名勝に指定され、草庵「松花堂」(京都府指定文化財)と「泉坊書院」(書院の間と玄関は京都府登録文化財)が建っています。

なんといっても一番の見どころは、宝形造の茅葺屋根(かやぶきやね)に覆われた「松花堂」です。
仏堂でありながら、二畳からなる小さな茶室でもあります。
中には床の間と仏壇があり、袋棚の下には丸炉が設けられています。

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また、入り口の土間にはおくどさん(竈/かまど)があり、にじり口を入った仏壇の裏には水屋があります。
おくどさんで水を沸かし、お茶を点て、仏に供え、客をもてなし、自らも茶を飲む。
すべてをそぎ落とし、侘茶の境地に至った昭乗の理想を体現した茶室で、まさに千利休の茶の湯の精神に通じています。

また、天井は周囲を少し折り上げて、中央は竹の網代(あじろ)張りになっています。
そこには、日輪(にちりん/太陽)と鳳凰(ほうおう)が鮮やかに描かれていますが、これは明治になって描かれたものです。

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また、「泉坊」の車寄せは伏見城の遺構ともいわれ、扉には桐の紋を見ることができます。
屋根上の唐破風の鬼瓦は「寛永の三筆」が筆を執ったものともいわれ、「福」は近衛信尹、「禄」は本阿弥光悦、「寿」は松花堂昭乗の筆と伝えられています。
これら建物は苔庭や枯山水の築山で囲まれていて、かつて男山で多くの風雅を好む一流文化人が集った「文化サロン」の様相が偲ばれます。

松竹梅の茶室や珍しい竹などを見ておくれやす

外園には松竹梅、三つの茶室があります。
入母屋造りで床の高い建築様式の「松隠 閑雲軒」は、昭乗が住んでいた「滝本坊」の書院に小堀遠州と相談して建てたと伝わる茶室「閑雲軒」を再現したものです。
「閑雲軒」は男山の崖に、7メートルもの柱に支えられて建っていたようです。
昭乗と遠州の交遊の深さを知ることができるとともに、往時の茶室を知る上で貴重なお茶室となっています。
「竹隠」は、竹の中で最も美しい「金明孟宗(キンメイモウソウ)竹」の竹林を借景に取り込んだ現代建築の様相になっています。
そして「梅隠」は、千家三代の千宗旦(せんのそうたん/千利休の孫)好みの茶室を再現したもの。

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この三つの茶室は希望すれば、お茶会を開くこともできます。
松隠では毎月第2日曜日に「松花堂月釜会」が、竹隠では春(3~6月)と秋(9~11月)の観光シーズンの日曜日に、お客様に気軽に楽しんで頂けるお茶席「日曜茶席」が開催されています。

また、お庭では四季を華やかに彩る季節の花や木々も堪能できます。
金色と緑の市松模様が美しい天然記念物指定の「金明孟宗竹」や、孟宗竹から突然変異したという「亀甲竹」など、珍しい模様をした40種類に及ぶ竹や笹類、そして茶花として珍重される200種を超える椿を愛でることができます。
そのほか、初春には紅梅や白梅、春には枝垂桜、そして夏の深緑、秋の紅葉など四季を通じてさまざまな装いを楽しむことができます。

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また、所々にある垣根にもご注目ください。「昭乗垣」「光悦垣」「金閣寺垣」などそれぞれに趣のある竹垣があります。
竹垣は結界にもなっており、この垣根ひとつでお茶室の内側から見る景色も随分変わってきます。

そして実はここ、もともとは「東車塚古墳」のあったところなのです。
四世紀末のものとされる前方後円墳を利用して、築山や枯山水庭園が造られており、古墳を利用した庭園としては極めて珍しいものといえます。

さまざまな時代に思いを馳せながら、季節の風景や松花堂弁当を楽しみにお出かけしてみてはいかがでしょうか。

※各お茶会については「松花堂庭園・美術館」までお問い合わせください。

取材協力 : 松花堂庭園・美術館
〒614-8077 京都府八幡市八幡女郎花43番地
電話番号 : (075)981-0010
FAX番号 : (075)981-0009

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