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京都通

  • 2017/4/15

第321回 京都絞り工芸館『京の伝統の技を発信する、日本で唯一の絞り染め美術館』

絞り染めは世界最古の染色技法なんどすえ

二条城の近くにある「京都絞り工芸館」は京都の伝統工芸”絞り染め”専門の美術館として、平成13年に開館しました。絞り染めは布の一部を強くくくるなどし、そこに染料が入らないようにすることで、独特の模様や凸凹とした立体感を作り出す世界最古の染色技法です。絞り染めを施したものは昔から世界各地にありますが、インドからシルクロードを渡ってきたものがルーツとされています。

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日本での歴史は古く、6・7世紀にはすでに行われており、文献としては日本書紀に記述が残っています。京都では10世紀頃に宮廷衣装に用いられたのが原点とされており、江戸時代、「奢侈(しゃし)禁止令」(贅沢を禁止して倹約を推奨する法令)が出された際には、歌舞伎役者と花魁だけが着ることを許された高級品として発展してきた歴史があります。現在では洋装や額、屏風などに絞り染めが取り入れられ、美術工芸品としても高く評価されており、ユネスコ無形文化遺産登録を目指す活動も行われています。

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1300年の歴史と技術を誇る京都の伝統工芸「京鹿の子絞り」は、立体感のある模様が小鹿の背中の斑点に似ていることからこの名が付いています。生地は絹と決められており、現在では絹地の絞り染めを総称して京鹿の子絞りと呼んでいます。その代表的な絞りは、細かい絞りが特徴の「疋田(ひった)絞り」をはじめ、絞り目の形が開いた傘のようにみえる「傘巻絞り」、線を表現するとともにその紋様が人の目にも似た「一目絞り」、木型を生地に挟んで幾何学模様を作り出す「板締め絞り」、布を帽子のように覆う「帽子絞り」、染めたい部分を桶にくくる独特の「桶絞り」など多くの技法があります。

時代とともに新しく誕生したものもあり、その数は100種類以上。その一つ一つに先人の知恵と卓越した技を垣間見ることができます。ちなみに、こちらで新しく作られた技法の一つ「京ほたる絞り」は、ふわりとした優しい風合いが特徴で、アフリカにある技法をヒントに誕生したそうです。

熟練の職人さんが手掛けた作品を見られるんやて

絞り染めは他の伝統工芸と同様に、それぞれの工程が分業制となっています。「デザインを描く」「布に型をおこす(下絵を描く)」「布をくくる」「染める」「糸を解く」「湯のし(蒸気をあて生地を整える)」などに分かれ、絞りの技法によって職人も変わるので、例えば一つの布に5種類の絞り方を用いる場合には一つの工程だけで5人の職人が関わることになります。幾人もの熟練した職人の手と長い歳月を経て、繊細な絞りが生み出されるのです。

京都絞栄会(こうえいかい)はそんな職人たちが結成したグループで、こちらの美術館では京都絞栄会が30年にわたって制作・コレクションしてきた絞り染めの作品を、数カ月ごとにテーマを決めて展示しています。現在開催しているのは「絞り染めで魅せる世界の名画展」(平成29年5月7日まで)。巨大絞り壁画に仕上げたレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」をはじめ、ゴッホやミレー、マネといった誰もが知る世界の名画、そして昨年生誕300年を迎えた伊藤若冲の「鶏図」や葛飾北斎の浮世絵などを絞り染めで再現した立体感あふれる作品をご覧いただけます。続いて平成29年5月9日(火)から8月31日(木)までは「生命の地球(いのちのほし~次世代への贈り物~)」が開催されます。

世界の人々に地球環境保護をアピールするため、40名の絞り染め職人が10種類の絞り技法を駆使し、青い地球や珊瑚、虹、飛行船、解ける氷河を直径約2.5m、円周約7.85mの立体として製作しました。また、同期間には京都の伝統行事「五山の送り火」をモチーフに、京鹿の子絞りの技法を使った幅6.5m、高さ3mの巨大な作品も展示されます。製作期間2年を要した力作で、「妙法」「右大文字」「左大文字」「船形」「鳥居」の送り火が幻想的に浮かび上がり、周りには京都の夜景が広がります。約200点の関連作品とともに、職人の心意気を心ゆくまでご堪能ください。

体験を通して絞り染めを身近に感じておくれやす

この工芸館の最大の魅力は何といっても、絞り染めの体験ができることです。スカーフ制作とふくさ制作の2種類のコースがあり、初めての方からデザイナー、テキスタイル好きの方まで、楽しく体験していただけます。日本の絞りの技術は世界からも大変注目されており、体験される4割の方が欧米を中心とした外国の方なのだとか。そのため、英語を話せるスタッフが丁寧に指導にあたっています。また、絞り染め体験ができるところは他にあっても、絹を使って体験できるのは全国でもここだけです。そのこだわりから、京都の伝統工芸を受け継ぐ使命が感じられます。

体験ではまずコースを決め、どんな色に仕上げるかをイメージします。そしてデザインを決めて、生地をくくったり、木型を挟んでいきます。同じ木型でも生地の当て方や折り方によって仕上がりは変わるので、出来上がりを想像しながら自分なりの工夫を入れてみてもいいでしょう。その後、染色していきますが、くくり方や木型の位置を移動させるなどし、2回染色を施します。果たしてどんな模様に仕上がっているのか、染め上がった布を広げる瞬間は一番の醍醐味です。当日持ち帰ることができるので、生地を乾くまで、2階の美術館で特別展をはじめ、絞り染めの技術を紹介する映像や道具などを鑑賞したり、併設のショップでお買い物を楽しみながら待ちましょう。

完成品はギフトボックスに入れてもらえるので、大切な方への贈り物にも最適です。実はショップでもスカーフを販売していますが、体験コースではその半分の金額で作ることができるので、かなりのお値打ちです。ご予約はお一人様から40名の団体客まで受け入れ可能で、空きがあれば当日でも体験することができます。是非、京都の思い出作りに1300年続く伝統の技に触れてみてはいかがでしょうか。

取材協力 : 京都絞り工芸館
〒604-8261 京都市中京区油小路通御池南入ル
電話番号 : 075-221-4252
FAX番号 : 075-221-4253

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