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京都通

  • 2017/9/16

第326回 京都浮世絵美術館『北斎、広重、歌麿の傑作が揃う浮世絵コレクション』

世界に誇る浮世絵の魅力を味わっておくれやす

2017年4月、京都の繁華街・四条通りに面したビルの2階にオープンした『京都浮世絵美術館』。展示作品はすべて同館の運営会社社長の個人所蔵で、約10年前から収集している浮世絵のコレクションは200点以上を数えます。

「多くの方に浮世絵の素晴らしさを知ってほしい」という思いから、国内外から観光客が多く集まる京都で公開されることになりました。また、京都には浮世絵にゆかりの深い版木屋さんが多くあるということも、この地に美術館を置いた理由のひとつだそうです。もともと浮世絵は16世紀後半に京都の庶民の生活を描いた絵として始まったといわれ、18世紀になってからは江戸を中心に流行し、大衆文化として花開きました。

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ちなみに、「浮世」の語源は「憂世」といわれており、辛く憂えるこの現世に生きなければならないのならば、いっそ楽しく暮らそうという意味合いがあり、浮世絵にもこうした「今を積極的に楽しもう」といった精神が込められています。

絵師たちはその時代の流行や関心ごとを絵の題材にし、趣向を凝らした描写で「今」を表現しました。その当時、浮世絵は世界的に価値のある美術品ではなく、木版刷りされたことから量産され、大衆向けに出回りました。庶民でも容易に手に入れることができるものとして、美人画や人気歌舞伎役者の似顔を浮世絵で楽しんだのです。それぞれ今でいうところのファッション誌やブロマイドのような存在だったのでしょう。

それが19世紀後半、海外の人たちが浮世絵の美しさに注目したことで、「ジャポニズム」という風潮が生まれ、価値の高い浮世絵がたくさん国外に流出しました。ゴッホをはじめ、マネやドガ、ゴーギャン、モネなど浮世絵に多大な影響を受けた芸術家も多く、今もコレクターのほとんどは外国人なんだそうです。同館を訪れる方の半数は外国人で、中でもフランス人が多いことから、英語やフランス語を話せるスタッフが常駐しています。また、ショップコーナーにはお土産や来館の記念にぴったりな浮世絵のレプリカやTシャツ、お菓子などが置かれ、浮世絵ファンならずとも楽しめるグッズが充実しています。

天才絵師・葛飾北斎の名作にいつでも会えるんやなぁ

同館では貴重なコレクションの中から、テーマに沿った浮世絵が約40点公開されており、季節ごとに展示替えが行われます。浮世絵の祖とされる菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の作品をはじめ、"江戸の三大浮世絵師"葛飾北斎・喜多川歌麿・歌川広重を中心に、京都や大阪など関西を題材にした作品や9枚からなる大判作品など、幅広い浮世絵作品をご覧いただけます。

特徴はそのすべての浮世絵が「初摺(しょずり)」であるということ。浮世絵は絵を描く「絵師」、その絵を板に彫る「彫師」、その板を紙に摺る「摺師」の分業で行われ、もちろんすべて手作業です。

新作は絵師の立ち合いのもと、摺師が試し摺りをします。そこで絵師が修正を加えた上で200枚ほど摺られるのですが、これを「初摺」を呼びます。絵師の想いが現場でそのまま絵に反映されることから、とても品質が良く、高い価値が付けられます。

大ヒット作品ともなると万単位で摺られていたので、いかに初摺が貴重であるかが伝わります。常設展示の、葛飾北斎による歴史的傑作シリーズ「富嶽三十六景」ももちろん初摺です。ダイナミックな波が描かれた大胆な構図の作品は、それが浮世絵と知らない人でもおそらく一度は目にしたことがあることでしょう。

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この「富嶽三十六景」は富士山をテーマにした連作で、当初はタイトル通り36枚で終わる予定でしたが、人気を集めたため、10枚が追加され、全46作となっています。その中でも三大富士として名高い「神奈川沖浪裏」、「凱風快晴」(通称・赤富士)、「山下白雨(さんかはくう)」(通称・黒富士)が並んだ贅沢な空間が作られており、多くの来館者はこの前で足を止め、三様の富士の姿を楽しまれています。

「東海道五十三次」が一挙公開されるんどす

この10月1日からは、浮世絵の中でもとりわけ有名な歌川広重の旅シリーズ「東海道五十三次」全55作品が一挙公開されます(2018年1月31日まで)。名所絵を究めた風景画の達人である広重ですが、もともとは江戸幕府の火消しの家に生まれ、一度はその仕事を継いだものの、幼い頃から好きだった絵の道に進むことを決意。

そして、年齢こそ随分違いますが、北斎とともに人気絵師として同時期に活躍しました。江戸時代、民衆の間で旅が一大ブームとなり、広重が発表したこの風景画は空前の大ヒットに。江戸と京都を結ぶ街道の名所や名物などが郷土色豊かに描き出されたシリーズで、当時はガイドブックの役割も果たしていました。

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東海道の53の宿場町に、出発地の東京・日本橋と到着地の京都・三条大橋を含め、55の連作となっています。この55枚からなる「東海道五十三次」シリーズを道順に沿ってご覧いただくことで、江戸時代の庶民の目線で旅をしている気分が味わえます。

また、広重作品は「ヒロシゲブルー」「ジャパンブルー」とも呼ばれる独特の青の表現が使われており、世界中で高く評価されています。とはいえ、浮世絵は当時の日本の様子や庶民の関心ごと、生活ぶりなどを描いており、特に見たままに描かれている「東海道五十三次」は、絵画鑑賞のように堅苦しく考えずに、写真を見るような気持ちで鑑賞していただくと、より楽しさが増します。「この女性たち、一人のお客を取り合っているよ」とか「おいしそうな顔をしているな」などと様々な発見があるのです。

また、浮世絵を実際見てみると、想像しているよりも小さいことに驚かれるかもしれません。木版画であるため、そう大きなものは作れなかったのでしょう。

小さな美術館ですが、江戸の庶民の暮らしが生き生きと感じられる貴重な空間です。観光やお買い物の折に、浮世絵の世界に気軽に触れてみてはいかがでしょうか。
※詳しい展示内容については同館へお問い合わせください。

取材協力 : 京都浮世絵美術館
〒600-8004 京都市下京区四条通寺町西入奈良物町365 キリハタビル2F
電話番号 : 075-223-3003
FAX番号 : 075-223-3004

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