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京都通

  • 2018/1/20

第330回 日向大神宮『神聖なるパワーに包まれた、京のお伊勢さん』

神明造りの内宮と外宮に出会えるんどす

街のほど近くにありながらも、東山の中腹にひっそりとたたずむ日向大神宮。「ひむかいだいじんぐう」と読みますが、地元では「ひゅうがだいじんぐう」「ひゅうがさん」とも呼ばれ親しまれています。

ここは京都最古の神社の一つで、創建は平安遷都よりももっと前、古墳時代といわれる487年頃。第23代顕宗(けんぞう)天皇の時、筑紫の日向(ひむか)の高千穂の峰の神蹟(しんせき/神が宿っていた場所)を移したのが起こりと伝えられています。日向の高千穂といえば、日本神話では天孫降臨の地とされる神聖な場所です。

日向大神宮は「京の伊勢」と呼ばれ、昔は東海道を往来する旅人たちの道中の安全祈願、伊勢神宮への代参として、多くの参拝者でにぎわっていました。ちなみに現在では東山三十六峰を巡る人気のトレッキングコースになっているため、登山客が旅の安全を祈願する姿がよく見られます。

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境内には伊勢神宮と同じく「内宮(ないく)」と「外宮(げく)」があり、社殿は神社建築の初期の様式「神明造(しんめいづくり)」となっています。茅葺きの屋根の上に突き出た千木(ちぎ)と棟に並ぶ鰹木(かつおぎ)が特徴で、京都で神明造が見られるのは非常に珍しいことだそうです。一般的には千木の先端が垂直に切られていると男神を、水平に切られていると女神を祀っているとされています。

境内の奥に建つ内宮には、伊勢神宮と同じ「天照大御神(あまてらすおおみかみ)」のほか、「市寸島比売命(いちきしまひめのみこと)」など宗像三女神を、外宮には「天津彦火瓊々杵尊(あまつひこほににぎのみこと)」と「天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)」が祀られています。また、内宮の右側には神様が降臨する「影向岩(ようごういわ)」があり、内宮の背後に建つヒノキは、幹が大きくねじれていて、目に見えない不思議な力が流れているのでは、そう思わずにはいられない霊気が伝わってきます。

内宮・外宮から少し離れ、山を登っていくと「伊勢神宮遥拝所(いせようはいしょ)」があります。そこには立派な鳥居が建っており、その鳥居の方角にある伊勢神宮に向かってお参りができるようになっています。

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そして、反対方向に振り返ると京都市内の絶景が一望できるのですが、ちょうど山の谷間に平安神宮の朱色の鳥居が、その向こうには緑豊かな京都御所をご覧いただけます。主要な場所は同じ線上に集まるといいますが、まさに天智天皇陵、日向大神宮、平安神宮、京都御所は一直線上にあり、さらにその先には丹波の元伊勢・皇大神社(こうたいじんじゃ)、丹後の元伊勢・籠神社(このじんじゃ)が並んでいて、日向大神宮がパワースポットといわれる理由の一つとなっています。

偉大な神様がいっぱい集まってはるんやなぁ

四方を深山に囲まれた境内には、内宮、外宮を含め全部で17の神社があり、それぞれに厄除けや開運などのご利益があります。まず、内宮の横の緩やかな坂道を上がっていくと、「天の岩戸(あまのいわと)」という巨大な岩が姿を現します。岩には穴が開いており、奥行き5メートルほどの通路があり、中ほどには天手力男命(あめのたじからおのみこと)を祀った「戸隠神社(とがくしじんじゃ)」があります。天手力男命は神話では岩戸に隠れている天照大御神を引き出し、世界に明るさを戻したと伝わる筋力・腕力を象徴する神様です。この岩戸を手前から奥にくぐり抜けることで、心身の穢れが落ち、開運・厄除けの御利益があるといわれています。

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また、「福土神社(ふくどじんじゃ)」には、縁結びで有名な出雲大社の神様・大国主命(おおくにぬしのみこと)が祀られており、本殿の前にはたくさんのお皿が置かれています。「かわらけ」という、素焼きのお皿に願い事を書き、その願いにぴったりな神社にお供えする風習があるのですが、お皿の数から見ても福土神社が一番人気であることが分かります。

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そのほか、商売繁盛の御利益がある「恵美須神社」、安産を祈願する「花祭神社(かさいじんじゃ)」、五穀豊穣を祈願する「神田稲荷神社」、交通安全の神様を祀る「猿田彦神社」、芸能の神様を祀る「天鈿女神社(あめのうずめじんじゃ)」、学問の神様を祀る「朝日天満宮」、七福神で唯一の女神・弁財天を祀る「厳嶋神社」などが、ほどよい広さの境内に山の高低差を利用して配置されています。

古事記に登場する有名な神様が一堂に集まっておられるのは、考えただけでも神々しい気持ちになります。もともと神社は地盤もよく、福のあるところに作られることが多く、それがパワースポットといわれる所以にもなっていますが、まさにここは天上界と地上界の間にあるような場所。おそらく神様も隠れ家のようなこの地でのんびりと過ごしていらっしゃることでしょう。

神事や桜・紅葉を見に、気軽に来ておくれやす

これから参拝者が参加できる神事としては、2月3日の「節分祭」があり、境内では諸祈願成就祈祷の献火神事、古札の焼納が行われます。特に節分の日に天の岩戸をくぐり抜けると、心身の一切の罪穢れが払い清められ、福運を招くといわれています。この「天の岩戸くぐり」は日本で唯一の神事で、終日参拝者でにぎわいます。

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また、10月17日は収穫に感謝する神嘗祭(かんなめさい)にあたり、日向大神宮でも10月16日に「外宮大祭」、10月17日に「内宮大祭」が行われ、御神楽「人長(にんちょう)の舞」が奉納されます。

そして、1月1日には「若水祭」が行われます。この日だけ、「朝日泉御井神社(あさひいずみみいじんじゃ)」の小さな祠の扉が開かれ、元日の午前3時にお水を汲んで、神様にお供えするのです。
三が日の間は内宮の前に水がめが置かれ、参拝者にも授与されます。これは都に疫病が流行したとき、清和天皇が夢のお告げによってこの水を万人に与えたところ、疫病が治まったため、「朝日泉」と名付けたと伝わる霊泉で、京の名泉の一つに数えられています。

また、山の中にある日向大神宮は紅葉の隠れた名所として知られており、内宮、外宮との調和や色のグラデーションを楽しむことができます。そのほか、ヒノキやスギの老樹が繁茂し、ツバキ、サザンカ、スギゴケ、神様の木といわれる榊(サカキ)など、四季を通じてさまざまな草花が神域を彩ります。

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春には八重桜や枝垂桜が咲き誇り、また山ツツジが参道に一斉に咲くと、紫の雲が浮かんでいるような光景に目を奪われます。中でも「十月桜」は10月~2月頃まで少しずつ花を咲かせ、秋には紅葉と一緒に見ることができる珍しい桜です。

このように草花が豊富にあることから、野鳥や動物も多く訪れ、イノシシや鹿、タヌキにリス、ときにはキツネがひょっこり姿を見せることもあります。ほかでは住めなくなった動物もここでは安心して暮らせるのでしょう。豊かな自然の中でさまざまな神様や動植物と出会うことができるのが、日向大神宮の大きな魅力です。

取材協力 : 日向大神宮
〒607-8491 京都市山科区日ノ岡一切経谷町29
電話番号 : 075-761-6639
FAX番号 : 075-762-5283

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