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京都通

  • 2018/3/17

第332回 京都徳力版画館『暮らしの中に溶け込む、ぬくもり溢れる京版画』

京版画の第一人者、徳力富吉郎の私設美術館なんどす

京都御所から丸太町通りを東に進み、鴨川を超えた閑静な住宅街の一角に建つ「京都徳力版画館」。平成3年(1991年)に創設されたこの版画館では、京版画の第一人者といわれる徳力富吉郎(1902~2000)の貴重な版画コレクションが公開されているほか、版画を使った雑貨の数々が販売されています。

徳力家は京都・西本願寺の絵所(えどころ)を代々務める絵師の家系で、初代から三代目までの作品は国宝として現存しています。明治35年(1902年)生まれの富吉郎はその12代目にあたり、京都市立絵画専門学校(現・京都市立芸術大学)を首席で卒業後、日本画を土田麦僊(つちだばくせん)、洋画を小林和作に師事し、国展など数々の賞を受賞しました。

昭和の初めに、かねてより興味のあった木版画の研究を進め、「版元 まつ九」を設立。これまで版画は職人による分業制でしたが、画家である富吉郎自らが版元となり、彫師や摺師といった職人をはじめ、紙屋、板屋などを従え、古版画の復元や新画の版画化、雑貨の販売を手掛けるなど、版画界を大いに盛り上げてきました。富吉郎が伝統的な京版画に現代感覚を取り入れて完成させた「徳力版画」は鮮やかな色彩の中に溶け込む品のある風合いが特徴です。「芸術をもっと日常生活の中で気軽に楽しんでほしい」という富吉郎の思いから、四季折々の京風景は絵はがきとなって、多くの方に親しまれています。

ちなみに、徳力版画は伏見稲荷大社や京都の老舗和菓子店などの手提げ紙袋などにも使われているので、日常のふとした場面で目にしているかもしれません。

貴重な古版画の魅力を味わっておくれやす

京都徳力版画館でまずご覧いただきたいのが、3階にある「古版画資料室」です。ここには、富吉郎が画業生活98年の中で参考資料として集めた古版画の数々、さらには富吉郎の作品を含め、竹久夢二や長谷川潔の版画、藤田嗣治の絵画、浮世絵など多数の作品が展示されています。

古版画の中でもひと際目を惹くのが、京都・仁和寺に原画のある国宝「孔雀明王像」です。明治37年(1904年)アメリカ・セントルイス市で開催された世界万国博に出品され、万国博覧会総裁より名誉金杯を受賞した木版画で、平成3年(1991年)に兵庫県立近代美術館でその版木が見つかり、美術館の許可を得て、富吉郎監修のもと再復元されました。

ほかにも、世界最古といわれる「百万塔陀羅尼(お経を摺った小経巻)」、京都・善峯寺の仁王像の胎内に納められた「胎内佛(たいないぶつ)」、滋賀県大津市で江戸時代の初めに作られた民俗絵画「大津絵」、さらには世界最古の紙といわれるエジプトの「パピルス」など、貴重な品々を間近でご覧いただけます。

また、3階まで続く階段の壁面にもさまざまな版画が展示されています。かつて本を貸し借りするために本の裏表紙に貼っていた「蔵書票」はコレクターも多く、富吉郎が手掛けたデザイン画もあります。寺院で法要をするときに諸仏を供養するために使う、蓮の形をかたどった「散華(さんげ)」には、有名な画家や漫画家のデザインもあり、思わず見入ってしまう魅力があります。

誰かに贈りたくなる、素敵なもんがいっぱいやわ

2階では徳力版画のさまざまな文具や工芸品を実際に手に取って購入できるほか、美術館のように作品を鑑賞していただけます。円山公園の夜桜、夏の祇園祭、大文字の送り火、南座の顔見世など、代表的な京の風景を描いた徳力版画の代表作ともいえる絵はがきは、人に送るのはもちろん、額に入れて飾っておくと、それだけで古都の風景がいつでも楽しめますし、写真とはまた違う、絵はがきならではの想像の世界に誘ってくれます。

また、版画の貼り箱「おはこ」もかわいらしく、箱の上面には清水寺や八坂神社など京の名所や舞妓さん、季節の野菜に鯛や大入りなどのおめでたいデザインのほか、「ありがとう」や「おつかれさまでした」といったメッセージが書かれたものもあり、どれにしようか迷うばかり。贈り物にしても大変喜ばれる逸品です。やはり芸術作品とはいえ、気軽に日常の中で使うことができるのが版画のいいところ。額装の版画、便箋や封筒、あぶら取り紙、うちわやお札などがあり、さらにはカバンや掛軸、屏風、風呂敷、お皿にグラスなど、あらゆるジャンルのものに木版画の技術が応用されています。

京都徳力版画館の周辺には平安神宮や動物園のほか、京都市美術館(現在改装中)や国立近代美術館、ロームシアター京都など見どころあるスポットが多くあります。岡崎散策の折に是非訪れてみてはいかがでしょうか。

※館内の見学は前日までにお電話でお問い合わせください。

取材協力 : 京都徳力版画館
〒606-8357 京都市左京区聖護院蓮華蔵町33
電話番号 : 075-761-0374
FAX番号 : 075-771-1641

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