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京都通

  • 2018/5/19

第334回 三室戸寺『極楽浄土を彷彿させる、色どり豊かな花の寺』

ご本尊は不思議な伝説を持つ千手観音菩薩なんどす

京阪電鉄三室戸寺駅から明星山に向かって15分ほど歩いたところに、西国三十三ケ所観音巡礼の十番札所として人々の信仰を集めてきた「三室戸寺」があります。

朱色の山門を通り、緩やかな上り坂を進むと、「よう おまいり」と刻まれた石柱が参拝者や巡礼者を温かく出迎えます。
そこから急勾配の石段を上っていくと、目の前に立派な本堂が姿を現します。
ここ三室戸寺は約1200年前に創建された天台宗のお寺で、今は本山修験宗の別格本山となっています。

時はさかのぼって、奈良時代の宝亀元年(770年)のこと。
毎夜、宮中を照らす金色の光を不思議に思った光仁天皇は、臣下の藤原犬養に命じて周辺を調べさせました。
すると、宇治川の支流である志津川上流の岩淵から金色に輝く二臂(にひ/二つの腕)の観音像が出現。
この観音像を安置するため、光仁天皇の勅願で御室(みむろ/離宮)の一部が置かれ、「御室戸寺」としたのが寺の起こりとされています。

後に桓武天皇によって、新たに千手観音菩薩が造られ、その胎内に二臂の観音像を納めて本尊にしました。
平安時代後期には御の字を三に替えて、「三室戸寺」と称されますが、これはこの寺が光仁、花山、白河の三人の天皇の御室であったからだといわれています。

さらに時を経て、その千手観世音菩薩は室町時代に寺とともに焼失しますが、胎内に納められた二臂の観音像は焼失を免れました。
以来、本尊として本堂で大切に安置され、二臂でありながら、「千手観音菩薩」と呼ばれるようになりました。
この本尊は秘仏で一般公開はされていませんが、本堂には御前立(おまえだち/同形の像)を安置しています。

また、本堂は江戸時代の文化11年(1814年)に再建された重層入母屋造りの重厚な建物で、京都府の文化財に指定されています。
西側宝蔵庫には重要文化財指定の「釈迦如来像」、「毘沙門天立像」、「阿弥陀如来坐像」などが所蔵されており、これらは毎月17日の朝9時から20分間だけ公開されます。

さらに、毎年11月中旬には「観音様の足の裏を拝する会」があり、「勢至菩薩坐像」の背後、衣の裾から見えるかわいらしい足の裏を拝むことができます。

今年は11月10日から12月2日までの土日祝日、こちらも朝9時から20分間のみの公開となっています。

四季折々の花の競演を楽しんでおくれやす

境内へ上がる石段の途中で右の坂道を下っていくと、「与楽園(よらくえん)」と呼ばれる約5千坪の大庭園があります。
昭和を代表する名作庭家・中根金作の設計によるもので、入り口に枯山水の小庭と池泉庭園が配され、そこから広大な庭園へとつながります。

与楽園とは「抜苦与楽(ばっくよらく)」という観音様の慈悲の言葉から名付けられたもの。
この大庭園には、三室戸寺が「花の寺」と称されるように、四季折々に花が咲き誇り、季節ごとに異なる装いを見せてくれます。

特に国内有数のあじさいの名所として知られ、見頃を迎える時期にあわせて公開される「あじさい園」では額あじさい、西洋あじさい、かつて幻のあじさいと言われた七段花(しちだんか)など約50品種、1万株のあじさいが花を咲かせます。
今年の公開時期は6月1日から7月8日までの1カ月間。
杉木立の間を紫・青・赤・白・ピンクとさまざまな色彩で埋め尽くされる様は圧巻の一言です。
さらに、6月9日~24日の土日のみ、ライトアップも行われ、昼間とはまた違った幻想的なあじさいを愛でることができます。

そして、6月下旬からはあじさいと入れ替わるように本堂前で蓮(はす)が次々に開花します。
大賀ハス、古代ハスなど約100種・250鉢の蓮が8月上旬まで咲き、その光景はさながら極楽浄土のようです。

早朝に花を咲かせ、昼には徐々に閉じていくため、その美しい姿を見るには午前中の参拝がおすすめです。
7月13日には「ハス酒を楽しむ会」も行われ、大きな蓮の葉に注がれたお酒を、茎をストローのようにしていただくもので、健康・長寿に効果があるといわれています。

そのほか、陽春には平戸つつじや霧島つつじ、久留米つつじなど2万本のつつじがお庭を華やかにし、初夏にはしゃくなげ、初秋には気品あふれる秋明菊(しゅめいぎく)を見ることができます。
11月ともなると紅葉が始まり、山内を赤や黄色に染め上げ、冬には椿、そして春には桜が満開となります。

このように一年を通して様々な草木花がお寺全体を彩る光景は、観音菩薩がいらっしゃる極楽浄土を彷彿させるもので、ご住職の「気軽に来て目を楽しませ、心を癒してほしい」といった温かい想いが伝わってきます。

勝運、金運、恋愛運などのご利益があるんやなぁ

三室戸寺にはお花以外にも多くの見どころがあります。

本堂前には狛犬ならぬ、かわいらしい狛兎(こまうさぎ)があります。
昔からこの周辺は菟道(うじ)といわれ、現在の宇治の中心地でもありました。
宇治を本拠地としていた、菟道稚郎子(うじのわきいらつこ/仁徳天皇の弟)が宇治に来た際、うさぎが道案内したとの伝承もあり、うさぎと深いご縁があります。
この狛兎の抱いている玉の中には卵型の石があり、その石が立つと願いが通じるといわれています。

この狛兎に対面して横たわっているのが、「宝勝牛」と名付けられた狛牛です。
口の中には石の牛玉(ごおう)が納められており、そこに手を入れて玉を転がし、仏像に触れると勝運に恵まれるといわれています。
宝勝牛はこのほか、ガン封じや病気平癒、金運、健康にもご利益があるとされています。
これは、三室戸寺に観音詣でをしていたお百姓・富右衛門が、飼っていた弱々しい牛が観音様のおかげで立派になり、地域一番の牛と戦い勝った報奨金をもとに、牛の仲買人として成功したという言い伝えによるものです。

また、狛蛇も置かれており、「宇賀神」といって、頭は老翁、体は蛇で、蓮に乗った姿をしています。
こちらにも、カニを助けた娘が蛇に嫁入りを迫られ、カニが蛇を退治したという伝承があります。

御室戸寺には娘が蛇の供養のために奉納したと伝わる宇賀神の木像(非公開)があり、参拝者に気軽に触れてもらおうと、木像に似せた石像が新設されたのです。
耳を触れば福が来て、ひげをなでると健康長寿、しっぽをさすれば金運がつくといわれています。

さらに、松尾芭蕉の句碑や源氏物語宇治十帖「浮舟」の古跡のほか、源氏物語の恋おみくじ、ハート型の絵馬などもあり、さまざまな角度から楽しめるお寺となっています。

取材協力 : 三室戸寺
〒611-0013 京都府宇治市莵道滋賀谷21
電話番号 : 0774-21-2067

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