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京都通

  • 2016/10/15

第315回 黄梅院(おうばいいん)『美しい苔庭が出迎える、戦国武将ゆかりの名院』

年に二度、春と秋に特別公開されるんどすえ

織田信長や豊臣秀吉をはじめとする戦国武将、わび茶を完成させた茶人・千利休などと縁が深いことから、日本の歴史や文化に多大な影響を与えてきた臨済宗大徳寺派大本山「大徳寺」。
その大徳寺の数ある塔頭の一つに「黄梅院」があります。

黄梅院は室町時代の永禄5年(1562年)、当時28歳だった織田信長が初めて京都を訪れた際、父・信秀の追善供養のために、羽柴(後の豊臣)秀吉に命じて、「黄梅庵」を建立させたのが始まりです。
開祖に大徳寺98世住持の春林宗俶(しゅんりん そうしゅく)を迎え、庵名は弘忍大満(ぐにんだいまん/中国禅宗の五祖)ゆかりの地である中国の「黄梅県破頭山東禅寺」が由来となっています。

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天正10年(1582年)、本能寺の変で信長が急逝した際には、その葬儀が秀吉によって大徳寺で盛大に行われました。
秀吉は信長の塔所(お墓)として黄梅庵を増改築しましたが、信長の塔所としては「小なり」(小さ過ぎる)という理由から、大徳寺山内に総見院を新たに建てることになりました。

そして天正16年(1588年)、毛利元就の三男で豊臣秀吉政権の五大老(豊臣氏の職制の一つで、政務を統轄した5人の年寄衆)を務めた小早川景隆により再興し、隆景の法号(死後の名前/戒名)に因んで寺名を「黄梅院」と改めました。
普段は一般公開されていませんが、年に2度、春と秋に特別公開され、一部の施設を見学することができます。

安土桃山時代の貴重な建物が残ってるんやなぁ

黄梅院は塔頭を構成する主要な建物が残っており、近世の禅宗塔頭の姿を伝える遺構として大変貴重とされています。
「表門」は小早川景隆の寄進によるもので、なだらかな兜(かぶと)型の門となっています。
「庫裡(くり)」は仏教寺院における建造物の一つで、僧侶の居住空間、また台所の機能を持ちます。
こちらも小早川隆景が寄進して天正17年(1589年)に完成したもので、日本に現存する禅宗寺院の庫裡としては最古とされています。

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「本堂」は天正14年(1586年)、豊臣秀吉により建立され、昭和52年(1977年)には400年ぶりに全面解体工事が行われました。
内部は六室からなる禅宗特有の方丈建築で、玄関とともに建築細部に獅子や牡丹などの桃山風の豪壮な彫刻がみられます。

室内には雲谷派の祖・雲谷等顔(うんこく とうがん)の手による「竹林七賢図」など見事な襖絵が残っており、いずれも重要文化財に指定されています(現在の襖絵は複製です)。
雲谷等顔は、狩野永徳や長谷川徳白と並ぶ桃山時代を代表する画家で、毛利家の御用絵師として、数多くの水墨画を残しました。

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本堂南側の「唐門」も本堂と同じ年に建立されたもので、これら本堂、唐門、庫裏は重要文化財に指定されています。
そして、表門左手にある鐘楼(しょうろう)の釣鐘は、文禄1年(1592年)、豊臣家の家臣であった加藤清正が朝鮮出兵の際に持ち帰ったもので、獅子頭の彫刻が施されています。

また、千利休の茶道の師である武野紹鴎(たけの じょうおう)作の「昨夢軒(さくむけん)」は、四畳半の茶室で、院内では最も古い歴史を伝えています。
かつて境内の南東に独立して建てられていましたが、天正年間(1573-1593)に書院「自休軒(じきゅうけん)」に組み込まれました。

美しい庭の数々を楽しんでおくれやす

広々とした本堂と書院の周りを囲むお庭も、木々が色づくこの秋の見どころの一つです。
本堂南側の前庭「破頭庭(はとうてい)」は、安土・桃山時代の天正年間(1573-1593年)に作庭されました。
正方形をした敷地の手前には白川砂を配し、その向こうには桂石を境にして苔庭とすることで、海と陸を表しています。
「破頭」とは悟りの境地に達することをいい、観音・不動の大小二石を配した、格調高い枯山水となっています。

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本堂西側には、千利休が66歳の時に作庭した池泉回遊式枯山水庭園「直中庭(じきちゅうてい)」があり、一面に広がる美しい苔が見る者の心を和ませます。
秀吉の希望で造られた秀吉の軍旗「千成瓢箪(せんなりびょうたん)」をかたどった池があり、その池には伏見城遺構の石橋が架けられています。
また、大徳寺1世住持・徹翁義亨(てっとう ぎこう)が比叡山から持ち帰った不動三尊石や、加藤清正が朝鮮から持ち帰った朝鮮灯籠などが据えられています。
その庭の名前は、論語にある「直きことの其の中にあり」に由来します。

本堂北側には「作仏庭(さぶつてい)」があり、北東に枯山水の滝を表す立石を配しています。
その石から流れた水が西と南へと流れ下り、小船に見立てた巨石が据えられており、その様は「生々流転(せいせいるてん)」(すべての物は絶えず生まれては変化し、移り変わっていくこと)を表しています。
さらに表門から庫裡、唐門に至るまでの前庭は、苔とモミジに覆われ、特に新緑と紅葉の季節は見事な風景を作り出します。

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2016年秋の特別公開は10月8日(土)~12月4日(日)までです。
期間中は千利休作庭の「直中庭」、武野紹鴎好みの茶室「昨夢軒」、方丈庭園「破頭庭」、雲谷等顔筆の障壁画、庫裡などが公開され、希望者には限定の御朱印が授与されます。
この秋、黄梅院で特別なひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

取材協力 : 黄梅院
〒603-8231 京都市北区紫野大徳寺町53
電話番号 : (075)492-4539

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